平成28年12月9日に「がん対策基本法の一部を改正する法律案」が衆議院本会議において全会一致で可決され、「改正がん対策基本法」が成立しました。全国がん患者団体連合会は「がん対策基本法」の改正により、がん医療の向上と、がんになっても安心して暮らせる社会が構築されることを目指し、全国のがん患者団体並びに多くのがん患者やその家族からの声をもとに、その成立に向けた要望活動を行ってまいりました。
▲「改正がん対策基本法」の成立(2016年12月9日衆議院本会議)(衆議院インターネット中継)
現在、厚生労働省「がん対策推進協議会」で検討されている国の次期「がん対策推進基本計画」において、「改正がん対策基本法」で新たに盛り込まれた内容が確実に反映されるよう、一般社団法人全国がん患者団体連合会では平成28年12月13日付で、「改正がん対策基本法」成立に伴う国の「がん対策推進基本計画」への要望書を、厚生労働大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、厚生労働省がん対策推進協議会会長に送付・提出いたしましたので、ここにご報告いたします。
なお、本要望書については、12月13日の15時より衆議院第2議員会館において開催される超党派議連「国会がん患者と家族の会」総会で配布するとともに、12月14日の16時より厚生労働記者会において開催される全国がん患者団体連合会による記者会見で配布する予定です。
「改正がん対策基本法」成立に伴う国の「がん対策推進基本計画」への要望書(PDF)(全国がん患者団体連合会)
平成28年12月13日
厚生労働大臣 塩崎 恭久 様
文部科学大臣 松野 博一 様
経済産業大臣 世耕 弘成 様
厚生労働省がん対策推進協議会会長 門田 守人 様
一般社団法人全国がん患者団体連合会
理事長 天野 慎介
「改正がん対策基本法」成立に伴う国の「がん対策推進基本計画」への要望書
平成28年12月9日に「がん対策基本法の一部を改正する法律案」が衆議院本会議において全会一致で可決され、「改正がん対策基本法」が成立しました。全国がん患者団体連合会は「がん対策基本法」の改正により、がん医療の向上と、がんになっても安心して暮らせる社会が構築されることを目指し、全国のがん患者団体並びに多くのがん患者やその家族からの声をもとに、その成立に向けた要望活動を行ってまいりました。現在、厚生労働省「がん対策推進協議会」で検討されている国の次期「がん対策推進基本計画」において、「改正がん対策基本法」で新たに盛り込まれた以下の内容が確実に反映されるよう、10項目からなる要望を提出いたします。
1. 難治がん、希少がん、小児がんに関する研究と対策の推進
「改正がん対策基本法」では新たに第19条第2項で「罹患している者の少ないがん及び治癒が特に困難であるがんに係る研究の促進について必要な配慮がなされるものとする」とされました。国の医療分野の研究開発は、「日本医療研究開発機構(AMED)」や厚生労働省、文部科学省、経済産業省などが連携して推進されていますが、がんの基礎研究や臨床研究に関わる研究開発予算を十分に確保するとともに、現行の「ジャパン・キャンサーリサーチ・プロジェクト」などにおいて「難治がん、希少がん、小児がん研究」を重点的に進めてください。また、国の次期「がん対策推進基本計画」で「難治がん、希少がん、小児がん対策」を重点項目とし、これらのがん患者と家族が適切な医療や支援を受けられるよう、必要な施策を実施してください。
2. がんの支持療法に関する研究と対策の推進
第19条で「がんの治療に伴う副作用、合併症及び後遺症の予防及び軽減に関する方法の開発その他のがん患者の療養生活の質の維持向上に資する事項についての研究が促進され、並びにその成果が活用されるよう必要な施策を講ずる」とされました。2015年6月に公開された国の「がん対策推進基本計画中間評価」では、がん診療連携拠点病院における「高度催吐性リスク化学療法薬制吐剤処方率」は6割程度とされており、緩和ケアを含む支持療法に関わる国内での治療薬や治療法の普及と研究開発も未だ不十分です。がん患者の治療に伴う身体的、精神的な痛みを軽減できるよう、がんの手術療法、化学療法、放射線療法などにおける苦痛の軽減と低侵襲化を目指した研究を進めるとともに、医療機関での普及を目指した施策を実施してください。
3. がん患者の就労に関する対策の推進
第8条「事業主は、がん患者の雇用の継続等に配慮するよう努めるとともに、国及び地方公共団体が講ずるがん対策に協力するよう努める」、第20条「国及び地方公共団体は、がん患者の雇用の継続又は円滑な就職に資するよう、事業主に対するがん患者の就労に関する啓発及び知識の普及その他の必要な施策を講ずる」とされました。「がん対策推進基本計画」で、就労を希望するがん患者への医療機関での支援を徹底し、ハローワークでの支援や、中小企業被雇用者、非正規雇用者、個人事業主への支援のあり方を検討してください。また、がんを理由として患者が職場で不利益を被らないよう、患者を擁護する新たな指針を策定するとともに、企業へのインセンティブ、体力低下や後遺症に応じた柔軟な働き方を支援する制度を検討してください。
4. 緩和ケアに関する対策の推進
第17条で「国及び地方公共団体は、がん患者の状況に応じて緩和ケアが診断の時から適切に提供されるようにすること、がん患者の状況に応じた良質なリハビリテーションの提供が確保されるようにすること」とされました。2016年9月に公開された総務省「がん対策に関する行政評価・監視」報告書・勧告では実地調査に基づき、「一部のがん診療連携拠点病院において、最低限提供すべき緩和ケアが提供されていない」とされています。がん患者ががんと診断された時から、緩和ケアチームや緩和ケアに関わる診療科に容易にアクセスや併診が出来るようにするなど、拠点病院に求められる緩和ケアの徹底と、「痛みのスクリーニング」に関する拠点病院の指定要件を明確にするなど、緩和ケアの充実に向けた施策を実施して下さい。
5. がん検診に関する対策の推進
第14条第2項で「国及び地方公共団体は、がん検診によってがんに罹患している疑いがあり、又は罹患していると判定された者が必要かつ適切な診療を受けることを促進するため、必要な環境の整備その他の必要な施策を講ずる」、第3項で「がん検診の実態の把握のために必要な措置を講ずるよう努める」とされました。総務省「がん対策に関する行政評価・監視」報告書・勧告では、「がん検診の対象者全員に個別勧奨を実施している市の受診率は高い傾向にある」「がん検診受診率の算定方法が統一されていない」とされています。科学的根拠に基づいたがん検診を実施するとともに、勧告に従い、「コール・リコール」の徹底を国の次期「がん対策推進基本計画」で明記し、正確で比較可能な受診率の統一的な算出方法を検討してください。
6. ピア・サポートに関する対策の推進
第22条で「国及び地方公共団体は、民間の団体が行うがん患者の支援に関する活動、がん患者の団体が行う情報交換等の活動等を支援するため、情報提供その他の必要な施策を講ずる」とされました。総務省「がん対策に関する行政評価・監視」報告書・勧告では、「がん経験者が最も求める精神的支援は体験談・同病者との交流」とされていますが、「一部の都道府県では、ピア・サポート研修が実施されておらず、拠点病院におけるピア・サポーターの受入れも不十分」とされています。ピア・サポーターの対応能力向上と受入れのため、勧告に従い、「研修の開催指針の策定等を検討するなどにより 、ピア・サポートを更に普及させるための措置を実施」し、拠点病院のがん相談支援センター等を通じ、がん患者団体の活動への支援を進めてください。
7. 小児がん患者の学習と治療との両立の支援
第21条で「国及び地方公共団体は、小児がんの患者その他のがん患者が必要な教育と適切な治療とのいずれをも継続的かつ円滑に受けることができるよう、必要な環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする」とされました。小児がん患者や若年がん患者は、治療による身体的、精神的な苦痛を伴いながら学業を継続することを余儀なくされており、ときに教育現場における生徒や教職員からの誤解や偏見、いじめの対象となる場合もあります。国の次期「がん対策推進基本計画」において、小児がんや若年がん患者が治療を受けながら学業を継続できるための施策を明記するとともに、文部科学省においては、教育現場での小児がん患者や若年がん患者の学業の継続と擁護を目的としたガイドラインを策定し、普及を図ってください。
8. がんに関する教育の推進
第2条第4項「がん患者に関する国民の理解が深められ、がん患者が円滑な社会生活を営むことができる社会環境の整備が図られること」、第23条「国及び地方公共団体は、国民が、がんに関する知識及びがん患者に関する理解を深めることができるよう、学校教育及び社会教育におけるがんに関する教育の推進のために必要な施策を講ずる」とされました。がんの予防や病態、治療の内容に加え、授業を受ける生徒とその背景に対して十分な配慮をしつつ、小児がんを含むがん患者への誤解や偏見を防ぐための内容を取り入れてください。また、医療者やがん患者などの外部講師を活用する際には、文部科学省「外部講師を用いたがん教育ガイドライン」に加え、研修の実施やその指針の作成など、外部講師の対応能力の向上を進めてください。
9. がん登録の適正な推進とその情報の適切な活用
第18条第2項で「がんに係る調査研究の促進のため、がん登録等の推進に関する法律(平成二十五年法律第百十一号)第二条第二項に規定するがん登録(その他のがんの罹患、診療、転帰等の状況の把握、分析等のための取組を含む。以下この項において同じ。)、当該がん登録により得られた情報の活用等を推進するものとする」とされました。がん登録の推進にあたっては、がん登録に係る個人情報が厳格に保護されるための施策を講ずるとともに、全国がん登録や院内がん登録によって得られたがん患者の罹患、医療機関ごとの診療実績、治療内容や治療成績などの情報が、国や都道府県のがん対策のみならず、学会などを通じたがん治療向上に向けた取り組みや、がん患者の医療機関や治療の選択に資するよう、わかりやすく公開してください。
10. 国や都道府県のがん計画の評価と改善の推進
第10条第7項で「政府は、がん医療に関する状況の変化を勘案し、及びがん対策の効果に関する評価を踏まえ、少なくとも六年ごとに、がん対策推進基本計画に検討を加え、必要があると認めるときには、これを変更しなければならない」とされました。従来の5年から6年に変更されたのは、6年間を計画期間とする医療計画や介護計画との整合性を確保するためとされていますが、計画期間が伸びたことにより「がん対策推進基本計画」への評価と改善が遅れることがないように、中間評価などの実施にあたっては、2015年に患者約1万4000人を対象に実施された全国調査である「患者体験調査」などの調査を、計画期間中に複数回実施するなど、がん患者や医療現場の現状や声を反映した評価と改善を行ってください。