2018年7月7日以降、西日本を中心として各地で豪雨による大規模な災害が発生しました。豪雨により亡くなられた皆さま、被災された皆さまに謹んでお見舞い申しあげますとともに、被災地のがん患者やご家族の皆さまのご無事を、心よりお祈り申し上げます。

「災害時にがん患者さんが気を付けること」として勝俣範之先生(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授)が2016年の熊本地震の際に執筆された文章について、先生より転載許可をいただいておりますので改めて転載するとともに、その他の信頼できる公的な情報についても掲載いたします。なお、当該文章の出典となるリンク先はこちらとなります。

■災害時にがん患者さんが気を付けること

この度の、熊本地震では多数の方が犠牲になりました。また、現在でもまだ大変多くの方が避難生活を続けていらっしゃいます。お亡くなりになられた方のご冥福を心からお祈り申し上げます。また、被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

被災された方の中には、多くのがんの患者さん、現在、治療中のがん患者さんもいらっしゃることと思います。

このような大きな災害に遭遇した際、がん患者さんがどういったことに気を付ければよいか、少しでも参考になればと思い、書かせていただきます。

■感染に注意

災害時にがんの患者さんが最も気をつけるべきことは、感染症です。免疫力が低下していることが多いからです。特に、現在、抗がん剤治療中の場合には、注意が必要です。災害時には衛生環境が悪化し、感染症が発生しやすくなっています。また、崩れた家屋の周りには、大量の真菌(カビ)が発生し、繁殖しやすい状況になっています。

通常の衛生環境でしたら、マスクをする必要はありませんが、崩れた家屋やがれきなどに近づく場合には、感染症を予防するために、マスクを着けてください。

また、感染症の予防で最も大切なことは、手洗いです。ほとんどの感染症は、手についた細菌やウイルスが、口や鼻、目などから体内に入って感染症を起こすことになります。がれきやヘドロの処置はなるべく行わない、また、家屋の清掃をする際には、手袋をするようにしてください。手洗いはこまめにすることをお勧めします。水がない場合には、アルコール入りの消毒液を使用すると良いと思います。

もし、抗がん剤治療中に発熱した場合には、感染症の疑いがあることになります。災害時の感染症は重症になることがありますので、まずは医療機関にご相談ください。あらかじめ主治医から抗生剤などを処方されている場合には、内服をしてください。

■エコノミークラス症候群に注意

災害発生時に、がんの患者さんが、感染症とともに、最も注意しなければならないこととしては、エコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)があります。

エコノミークラス症候群とは、エコノミークラスの航空機などを利用した際に、長時間、足を動かさないでいると、足の血液の流れが悪くなり、静脈に血のかたまり(血栓)ができやすい状態になります。血栓が大きくなると、足の静脈を塞いだり、時には、肺にまで血栓が飛んでいき、肺動脈を塞いだりしてしまうこともあります。これが、エコノミークラス症候群です。肺動脈が詰まってしまいますと、命に関わる重症となることがありますので、注意しなければなりません。

被災地では、崩れた家屋に 留まっていたり、避難所で長時間じっとしていたりすることが多いので血栓症が発生しやすくなります。今回の熊本地震でも、車中泊をしていた方にも発生したことが報告されています。

がんにかかっている患者さんでは、このエコノミークラス症候群が多く発症することがわかっています。

全がん患者さんの4~20%に発症すると言われ、一般の方よりも4倍、特に抗がん剤治療を受けている患者さんですと、6.5倍の発症リスクがあると報告があります(注1)。乳がんや前立腺がんで使われるホルモン療法も血栓発症のリスクとなります。また、高齢者も血栓症の発症リスクが高くなります。

がん患者さんの場合には、通常でも血栓症のリスクが高いので、災害時には特に注意が必要です。

■エコノミークラス症候群の予防方法

エコノミークラス症候群の予防には、1)水分補給をしっかりとすること。2)長時間じっとしていることを避け、1時間に1度以上は、時々足を動かすこと、などを心がけてください。

また、被災地などで、近くにがんの患者さんがいらっしゃる場合には、なるべく声をかけて、足を動かすように促してください。

もし、急にふくらはぎや、膝の裏、もものあたりが痛くなったり、赤く腫れてきたりした際には、すぐに医療機関にかかるようにしてください。また、長時間じっとしていた後、少し動き出した際に、急に呼吸が苦しくなったり、胸が痛くなったりした時には、肺塞栓症の疑いがありますので、すぐに医療機関へ連絡してください。

■現在、治療中の患者さんへ

現在、抗がん剤などで治療中の患者さんもいらっしゃると思います。しかし、被災していて、すぐに医療機関にかかることができない状況にいらっしゃる方もいると思います。

肺がん、胃がん、乳がん、大腸がんなどの固形がんの抗がん剤治療の場合は、1~2週間は治療が遅れても病状が変化することはありません。

災害直後には、まずは、ご自分の生活を整えることが大切です。また、上記に示したような、感染、血栓症に注意してください。

そして、あせらず、あわてずに、治療できる医療機関を探してください。

血液腫瘍や、小児がん、胚細胞性腫瘍などの抗がん剤治療が遅れることによって、病状に大きく影響を及ぼしてしまう抗がん剤の治療の場合には、治療をなるべく継続して行う必要があります。この場合は、医療機関にすぐに相談することをお勧めいたします。

■災害時の相談場所

災害時には、普段かかっている病院を受診できなくなる場合もあります。まずは、普段受診している病院に受診可能か調べてみてください。もし、普段受診している病院に連絡が取れない時は、地域のがん診療拠点病院のがん相談支援センターに連絡してください。

熊本地震関連情報では、国立がん研究センターのホームページ(注2)、がん情報サービス、大規模災害に対する備えなども有益な情報になると思います(注3)。

参考

  1. Heit JA, Silverstein MD, Mohr DN, Petterson TM, O’Fallon WM, Melton LJ, 3rd. Risk factors for deep vein thrombosis and pulmonary embolism: a population-based case-control study. Archives of internal medicine. 2000;160(6):809-15.
  2. 国立がん研究センター 熊本地震関連情報
    http://www.ncc.go.jp/jp/shinsai/index02.html
  3. がん情報サービス 大規模災害に対する備え
    http://ganjoho.jp/public/support/disaster/disaster_care_manual.html

その他現時点で、大規模災害にあわれたがん患者やご家族の皆さまにとって信頼できるガイドとしては、国立がん研究センターがん情報サービスなど下記のホームページが公開されていますので、お知らせいたします。

>>「大規模災害に対する備えーがん治療・在宅医療・緩和ケアを受けている患者さんとご家族へ-災害時の対応-」(国立がん研究センターがん情報サービス)

icon_pdf_03「大規模災害に対する備えーがん治療・在宅医療・緩和ケアを受けている患者さんとご家族へ-災害時の対応-」(PDF)(国立がん研究センターがん情報サービス)

>>災害看護「命を守る知識と技術の情報館」(兵庫県立大学看護学研究科COEプロジェクト)

>>自然災害発生後のがん対処法(チームオンコロジー.com)

被災地で治療中や経過観察中のがん患者やご家族の皆さまは、被災され大きな不安と向き合われていることと存じます。被災地のがん患者やご家族の皆さまで、私たちがん患者団体で何か助けとなること、欲しい情報などがありましたら、全国がん患者団体連合会事務局

office@zenganren.jp
ホームページお問合せフォーム

までご連絡をいただければと存じます。

今後、全国がん患者団体連合会は被災地のがん患者さんやご家族の助けとなる適切な情報の収集と公開、被災地のがん患者さんやご家族への支援を求めるとともに、連合会による支援も検討してまいります。被災地で治療中または経過観察中のがん患者やご家族の皆さまに対して、広く社会の皆さまのご理解とご支援を賜りたく、何卒よろしくお願い申し上げます。