厚生労働省「第441回中央社会保険医療協議会(中医協)総会」が2019年12月13日に開催され、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)を発症した患者が新たながんを予防することを目的として、対側乳房切除や卵巣・卵管切除を行うことについて保険適用とすることが了承されましたので、お知らせいたします。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の評価のイメージ

▲遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の評価のイメージ
(厚生労働省「第441回中央社会保険医療協議会(中医協)総会」資料より)

>>「第441回中央社会保険医療協議会(中医協)総会」資料(厚生労働省)

全国がん患者団体連合会では2019年6月17日に、日本乳癌学会、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構、全国がん患者団体連合会の連名にて「BRCA1・BRCA2遺伝子変異陽性者へのリスク低減治療に対する公的保険収載を求める要望書」を大口善徳厚生労働副大臣に提出し、「BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異陽性の既発症者へのリスク低減卵巣卵管切除術、 リスク低減乳房切除術と切除後の整容性の確保を目指した乳房再建術に対する公的保険収載」を要望してまいりました。また、同要望書の手交の際には大口厚生労働副大臣より、予後を改善し得る治療として中央社会保険医療協議会(中医協)にて検討していく旨、ご回答をいただいておりました。

大口善徳厚生労働副大臣への「BRCA1・BRCA2遺伝子変異陽性者へのリスク低減治療に対する公的保険収載を求める要望書」手交(2019年6月17日)

▲大口善徳厚生労働副大臣へのる要望書手交(2019年6月17日)
右より、桜井なおみ(全国がん患者団体連合会理事)、天野慎介(全国がん患者団体連合会理事長)、 秋野公造参議院議員、大口善徳厚生労働副大臣、井本滋氏(日本乳癌学会理事長)、中村清吾氏(日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構理事長)、山内英子氏(聖路加国際病院乳腺外科部長・ブレストセンター長)

本件の要望は、「乳癌診療ガイドライン2018年(日本乳癌学会)」において「乳癌既発症者における対側リスク低減乳房切除術(CRRM)」について「乳癌発症リスク低減効果のみならず、全生存率改善効果が認められていることから、本人の意思に基づき遺伝カウンセリング体制などの環境が整備されている条件下で実施を強く推奨する(推奨の強さ:1、エビデンスレベル:中、合意率:75% )」などとされていることに基づいて、学会等と連携して要望活動を行ってきたものです。本件の要望について、お力添えやご尽力をいただいた多くの医療関係者や行政関係者、国会議員や患者団体などの皆さまに、改めて御礼申し上げます。

【参考資料「BRCA1・BRCA2遺伝子変異陽性者へのリスク低減治療に対する公的保険収載を求める要望書」】

「BRCA1・BRCA2遺伝子変異陽性者へのリスク低減治療に対する公的保険収載を求める要望書」(日本乳癌学会、日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構、全国がん患者団体連合会)

令和元年6月17日

厚生労働副大臣 大口善徳殿

一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構
一般社団法人日本乳癌学会
一般社団法人全国がん患者団体連合会

BRCA1・BRCA2遺伝子変異陽性者へのリスク低減治療に対する公的保険収載を求める要望書

平成30年3月に閣議決定された第3期「がん対策推進基本計画」において「がんゲノム医療」が明記され、遺伝子、環境及びライフスタイルに関する個人ごとの違いを考慮した予防や治療法を確立する等の取組が推進されており、患者にとっては希望の医療として期待されています。

がんの原因となる遺伝子変異には、「生殖細胞変異(親から受け継ぐ先天的な遺伝子変異)」と「体細胞変異(生まれたあとに起こる後天的な遺伝子変異)」があり、前者の遺伝子変異が陽性である「遺伝性腫瘍のがん患者」や「遺伝子変異陽性の未発症者」が一定の割合で存在します。ゲノム医療の進展により今後は、これら「遺伝性腫瘍のがん患者」や「遺伝子変異陽性の未発症者」が検査や治療の過程で見出され、患者の価値観に応じた治療の選択肢の一つとして「疾病の発症前の一次予防」が可能な時代になりました。

中でも、BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異陽性者(遺伝性乳癌卵巣癌症候群患者)に関する科学的根拠は蓄積されつつあり、同遺伝子変異がある女性における70歳時の乳癌発症リスクは49~57%,卵巣癌発症リスクは18~40%といずれも高率なことが分かっています。

がん発症予防の視点から、BRCA変異陽性者への予防的治療を実施、生命予後を改善することの意義は大きいものですが、我が国においては、これらの治療が保険収載されていないため、患者に大きな経済的、心理的負担を強いているのが現状です。以上より、BRCA変異陽性者の価値観に応じた治療の選択肢の一つとして、適切な診療体制において、以下の対策を講じることを強く要望させて頂きます

BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異陽性の既発症者へのリスク低減卵巣卵管切除術、リスク低減乳房切除術と切除後の整容性の確保を目指した乳房再建術に対する公的保険収載を要望します。

■参考(出典:「乳癌診療ガイドライン2018年(日本乳癌学会)」)

  • CQ3b乳癌既発症者における対側リスク低減乳房切除術(CRRM)の場合
    乳癌既発症者におけるCRRMは,乳癌発症リスク低減効果のみならず,全生存率改善効果が認められていることから,本人の意思に基づき遺伝カウンセリング体制などの環境が整備されている条件下で実施を強く推奨する。
    〔推奨の強さ:1,エビデンスレベル:中,合意率:75%(9/12)〕
  • Q5.BRCA1、BRCA2遺伝子変異をもつ挙児希望のない女性にリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は勧められるか?
    BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ挙児希望のない女性に対してRRSOの実施を強く推奨する。
    〔推奨の強さ:1,エビデンスレベル:中,合意率92%(11/12)〕
  • CQ6.BRCA1あるいはBRCA2遺伝子変異をもつ女性が乳房温存可能な乳癌に罹患した場合であっても乳房全切除術が勧められるか?
    BRCA遺伝子変異を有する女性には乳房温存手術が可能であっても,患者が乳房温存手術を強く希望する場合以外は,乳房全切除術を行うことを弱く推奨する。
    〔推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:とても弱い,合意率:100%(12/12)〕