2020年東京オリンピック開催を契機として、オリンピック開催地における受動喫煙防止対策に向けた法規制の状況を踏まえ、受動喫煙防止対策を推進するための検討が行われています。また、厚生労働省がん対策推進協議会においても、国の第3期がん対策推進基本計画の策定に向けた検討が行われており、がん対策の推進においても受動喫煙防止対策の推進は、重要な課題となっています。一般社団法人全国がん患者団体連合会では平成29年3月21日付で、「受動喫煙防止対策の推進に関する要望書」を衆議院・参議院の国会議員に送付・提出いたしましたので、ご報告いたします。なお、全国がん患者団体連合会では本要望書について、3月23日の18時より厚生労働記者会において記者会見を開催予定です。
▲「受動喫煙防止対策の推進に関する要望書」(一般社団法人全国がん患者団体連合会)
平成29年3月21日
国会議員の皆様
一般社団法人全国がん患者団体連合会
受動喫煙防止対策の推進に関する要望書
2016年12月に「改正がん対策基本法」が成立しました。全国がん患者団体連合会は「がん対策基本法」の改正により、がん医療の向上と、がんになっても安心して暮らせる社会が構築されることを目指し、全国のがん患者団体並びに多くのがん患者やその家族からの声をもとに、その成立に向けた要望活動を行ってきたところ、国の次期「がん対策推進基本計画」や施策において、「改正がん対策基本法」で新たに盛り込まれた内容が確実に反映されるかを注視しております。
がん対策基本法では、第13条で「国及び地方公共団体は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣及び生活環境が健康に及ぼす影響、がんの原因となるおそれのある感染症並びに性別、年齢等に係る特定のがん及びその予防等に関する啓発及び知識の普及その他のがんの予防の推進のために必要な施策を講ずるものとする」とされています。また、2005年に発効した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」(WHO Framework Convention on Tobacco Control : FCTC)でも、第8条第2項で「締約国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所及び適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を国内法によって決定された既存の国の権限の範囲内で採択し及び実施し、並びに権限のある他の当局による当該措置の採択及び実施を積極的に促進する」とされています。
しかし、2015年に公開された厚生労働省「がん対策推進基本計画中間評価報告書」では、「受動喫煙の機会を有する者の割合」について、2011年は「行政機関7.0%、医療機関5.9%、家庭9.3%、飲食店45.1%」であったところ、2013年は「行政機関9.7%、医療機関6.5%、家庭9.3%、飲食店46.8%」とむしろ増加傾向にあり、飲食店で未だ4割以上の利用者が受動喫煙に晒されていること、国のがん対策推進基本計画において全体目標とされていた「がんの年齢調整死亡率の20%減少」が未達成となったのも、受動喫煙防止等の対策が不十分であったことが大きな要因であること、が指摘されています。
喫煙はがんや呼吸器疾患、循環器疾患、消化器疾患、歯周疾患など様々な疾病や健康障害の原因となっており、受動喫煙は、肺がんや呼吸器疾患、虚血性心疾患、乳幼児突然死症候群などの発症リスクを高めていることが明らかとなっています。2016年の国立がん研究センターの推計では、日本において、受動喫煙が原因で年間約1万5千人が亡くなっているとされており、WHO(世界保健機関)から先進国でも最低レベルとされている日本の受動喫煙防止対策により、未だ受動喫煙の被害を受けた多くの尊い命が失われています。
政府では受動喫煙防止対策を強化するための「健康増進法改正法案」について、今通常国会への提出に向けた検討をすすめているところ、飲食店などでは禁煙や分煙の表示義務のみとする案も検討されており、そのような対策は現状と何ら変わらず、受動喫煙の防止に繋がらないと考えられます。厚生労働省においては、がんの罹患者数を減らし、国のがん対策を確実に推進するために、飲食店を含む不特定多数の人が集まる場所での受動喫煙をなくし、建物内禁煙を基本とした実効性のある法的措置を講じることを要望いたします。